はじめに

ポーンを捨てる「ポーンサクリファイス」(Pawn Sacrifice)は、一見損に思えるかもしれませんが戦略的・戦術的に大切なプレーです。
どのような役割があるのか、過去の名プレイヤーの棋譜などを例にして解説します。
どんな役割があるのか
適切なタイミング・局面でポーンを捨てることで、同等またはそれ以上の代償※(Compensation)を得られる可能性があります。
※失った何か(例えばポーンの損)を別のメリットで埋め合わせること。
例の一部としては以下のようなものがあります。
・相手のピースの利きを止める
・マイナピースが活躍できるマスを作り出す、ピースをアクティブ(活動的)にする
・相手に取らせて相手の展開を妨害する
・ポーンを自ら捨てて、相手のポーン構造を崩すして弱点をつくる
・ポーンマジョリティをつくりだす
文字だけだとわかりにくいですが、以下の対局例を見ればすぐイメージをつかめると思います。
対局例
ポーンサクリファイスの役割として紹介したものが見られる対局を複数紹介します。
実際の対局に応用しやすいもの、レベルの高いものもありますが、軽くでも知っておくと自分の対局でも活かせるかもしれません!
ここでポーンを突き捨てたらどうなる?と考えられるだけで1つ選択肢が増えるので、よりよい手を指せる可能性が出てきます。
相手のポーン構造を弱めたり、駒展開をしにくくする
キング周りのポーン構造を乱し、弱める狙い。
ポーンサクリファイスの中でも比較的試しやすい部類の手です。

キング周りが弱まりました。黒マスビショップも中央側からは展開しにくい。

Krishnan Sasikiran(2677) – Alexander Olkhovskiy(2133) 1-0
働いていないビショップのラインを開く
ポーン1つ捨てるだけで、一気にビショップが働くようになります。

クイーンとの連携などが考えられます。

Vladimir Andreevich Makogonov – Mikhail Botvinnik 1-0
ピースが働けるようにする
ポーンチェーンに自分のビショップやナイトがブロックされていて、動きにくい状態。

ポーンを突くことでテンポを得つつ、ビショップだけでなくナイトのジャンプ先にもなるマスをつくることができました。
ルークを活躍させるためのファイルをつくる動きにもなっています。相手キングが中央残ったままの場合狙いたい動きの1つです。

Peter Svidler(スヴィドラー、2723) – Sergey Volkov(2620) 1-0 (2003年)
クイーンサイドのポーンマジョリティをつくる
キングサイドのポーンを捨てることで、クイーンサイドポーンマジョリティ(クイーンサイドにポーンが相手より多い状態)を作り出しました。

クイーンサイドのポーンが4:3となりました。
この後白番はクイーンサイドマジョリティを活かしたプレーを続けました。

ポーンマジョリティについては以下の記事で解説しています。
入りたいマスに入れるようにする
相手の守りで邪魔な駒があったら、それをどうにかできないか考えてみると上手くいくことがあります。

ポーンを突き捨てることで相手ポーンをそらし、クイーンが入れるマスを確保できました。

Ljubomir Ljubojevic – Anthony Miles 1-0
相手のビショップの利きを止めつつ、自分のピースをアクティブにできる
ポーンを捨てることで、相手のピースを働かなくします。
逆に自分のピースが働くポーン構造を作り出しています。

1手で複数の狙いが実現できる手は、チェスにおいて良い手の場合が多いです。

Mikhail Botvinnik(ミハイル・ボトヴィニク) – Arturo Pomar Salamanca 1-0 (1962年)
さいごに
手軽にできるものから、高度なものまでありますが、
・自分のピースだけ働くようにする
・相手のポーン構造を乱す
このあたりを意識してみるとポーンサクリファイスを見つけられるかもしれません。
チェスに少し慣れてくると「ポーンを失いたくない!」と思いがちですが、
「場合によっては、ポーンを捨てることで局面を有利にできる場合もある」ということを覚えておきましょう。
ポーンサクリファイスを実際の対局で有効に活用できれば、「成長できている!」と実感が湧いてくると思います!😊
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